北原白秋『桐の花』
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
最近、近代の短歌を読みなおそうという気運が高まっており、友人数人と読書会をしています。
『桐の花』は白秋の第一歌集ですが、すでに二冊の詩集を出しているということもあり、短歌という詩形で歌いたいモチーフが明確にあるような印象を受けました。リリカルでくっきりとした景が浮かぶ歌は、物足りないと感じる人も多いのでしょうが、その愛唱性はやはり際立っていると思います。好きな歌をいくつか。
■動物
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外(と)の面(も)の草に火のいる夕べ
日の光金糸雀(カナリヤ)のごとく顫ふとき硝子に凭(よ)れば人のこひしき
アーク灯点(とも)れるかげをあるかなし蛍の飛ぶはあはれなるかな
青柿のかの柿の木に小夜ふけて白き猫ゐるひもじきかもよ
梟はいまか眼玉(めだま)を平くらむごろすけほうほうごろすけほうほう
■植物
ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫ひそめし日
魔法つかひ鈴振花の内部(なか)に泣く心地こそすれ春の日はゆく
君と見て一期(いちご)の別れする時もダリヤは紅(あか)しダリヤは紅(あか)し
烏羽玉(ぬばたま)の天竺牡丹咲きにけり男手に取り涙を流す
■楽器
銀笛のごとも悲しく単調(ひとふし)に過ぎもゆきにし夢なりしかな
すずやかにクラリネツトの鳴りやまぬ日の夕ぐれとなりにけるかな
にほやかにトロムボーンの音は鳴りぬ君と歩みしあとの思ひ出
病める児(こ)はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑(はた)の黄なる月の出
■色彩・比喩など
草わかば色鉛筆の赤き粉のちるがいとしく寝て削るなり
金口(きんぐち)の露西亜煙草のけむりよりなほゆるやかに燃ゆるわが恋
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
美しく小さき冷たき緑玉(エメラルド)その玉掏らば哀しからまし
時計の針Ⅰ(いち)とⅠとに来るときするどく君をおもひつめにき