口語短歌のリズム感
短歌四拍子説(別宮貞則『日本語のリズム』)では、五七五七七は八八八八八の時間的長さを持つという。口語短歌においてこの音符はすべて八分音符である必要はなく、一六分音符や三連符に分けたり、タイやスラーで作られるフレージングを意識した韻律がある。
それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどのあかるさでした
笹井宏之『ひとさらい』
笹井の歌は音楽的な響きがあるといわれるが、なかでもこの歌は一行詩として高く評価されている。この歌を短歌たらしめているのは敬体で書かれた七音の結句にあるが「たたまれて」いう五音があることにも目を向けたい。「それはせか」で明らかにここでは切れないと思いながら「それは世界中の」まで読んでしまう。その後も「デッキチェアがたたまれて」までひと息で読み「しまうほどのあかるさでした」でようやく落ちつく。
1千万円あったらみんな友達にくばるその僕のぼろぼろのカーディガン
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』
完全口語を意識的に選択したという永井の一首。初句八音は四拍子説のとおりの増音だ。続いて「あったらみんな」「友達に」で切れると見せておいて、ここで切ると下句のリズムが破綻する。ここは三句八音となるのだが、三連符が空白を侵食するかのごとく「くばる」が入ることで「その僕の」「ぼろぼろの」「カーディガン」それぞれ五音の三フレーズが二小節を滑らかにつなぐ。この五音の三音目がすべて濁音なのもアクセントとして効いている。
鳥貴族で金麦(大)を頼まないとかリッチマンですかあ? じゃないんですよ
阿波野巧也「ねむらない樹」 vol.2
第一回笹井宏之賞永井祐賞受賞作「凹凸」から。「鳥貴族で」は五連符に助詞を加えたアクセントを、三句「頼まないとか」は口調の変化で七音を自然に入れている。四句はやや早口に英単語をそして日本語をゆったり、結句は一字空けから裏拍を取るように読むと気持ちよく着地する。「とか」「ですかあ?」「ですよ」といった語尾の選択もユニークである。定型の拍の時間の中を自在にあやつるリズムを楽しみたい。
(短歌人2019年5月号三角点掲載:引用部分は追記した)
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