『洞田』批評会に参加しました。(2)
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
引き続き、『洞田』を読んでいきます。
Ⅰ部はこちら
■Ⅱ部(主に口語新仮名)
阿波野さん:「洞田」が就職してからの時間は流れるが、大きな物語はなく、モードの似た歌で連作を構成。
大辻さん:トポスと「私」(「祝福の鈴」「明子の明」「止まり木」)場所を立脚させ定点観測しているかのよう。
花山さん:前半から後半へ、歌の質の変化がある。成熟のごとき変化。(根本的には同じなのに)
【列】
「就職」通勤風景を描いたと思われる都会の歌で構成されている。異彩を放つ歌も含まれる。比較的息が長い一連となっている。
「大阪、伊万里筋線」中澤系のオマージュ、一字空けを使ったライトな表現の歌をまとめる。
「ネームプレートに「ヤスヨ」とある」二度目のヤスヨはさらにパワーを増している。
「東京、千代田線」戸綿への心寄せととれる雰囲気のある景を立ち上がらせる。
「母方の祖母が亡くなる」この詞書は説明的に感じる。最後の四首のうち三首も詞書がつくと、どうしても編者のストーリーに持っていかれてしまう。
【明子の明】
「母に聞いた話である」関西の駅、昭和な郷愁を感じさせる一連。
「昭和60年10月16日、阪神タイガースが二十一年ぶりにセントラル・リーグ優勝」
「一番真弓、二番北村ときて、三番バースの代わりに道頓堀川へ投げ込まれたカーネル・サンダース人形、そして父も……」
飛び込みの歌をコミカルに仕立てるための仕掛けがきいている。わかる人にはすごくわかるけれども、わからない人にはさっぱりわからないと思う。編者がいちばん楽しんだところだろう。
「明子の明は、当時の阪神の一番打者で、その後監督も務めた真弓明信の明から取ったという」ルビのある歌の個性をうまくまとめたなと感じる。
【祝福の鈴】
詞書はない。比較的ローカルな駅の抒情のある歌をあえてストーリーにのせない形でならべている。祝福の鈴ではじまり、祝福の鐘で終わる。白いホームではじまり、白木蓮と白杖で連をまとめている。
【静岡】
一首のみ。戸綿の故郷のうた。きみは戸綿を思ってなのだろうか。
【止まり木】
人生を感じる一連。死をモチーフとした歌や死を海に仮託した歌が並ぶ。
「平成27年3月14日、北陸新幹線開業」
「平成28年1月31日、阪堺電車上町線住吉公園駅が廃止となった」
「前日の運行日は、例によってマニアが殺到したそうだ」
後ろの二首は鉄道に詳しい作者につけられた詞書。それをうけて、日付入りで北陸新幹線が描かれる。一首だけだと弱いので、富山や柿の葉寿司など北陸の歌を集めてもよかったかも。
「こんな夢をみた」ブラックな内容をシュールにまとめるための詞書と思われる。旧仮名が一首混ざるが、海と墓のテーマが大きくここに置きたかったのだろうと思われる。
「向こう側から森山直太朗と間宮祥太朗が手をつないで歩いてくる」太朗への挨拶歌。これを洞田の夢として読むのは少しつらいのではないか。
「君と旅行」前の歌からの流れとは思うが、ここはチープな印象。Ⅰ部に「日本中を旅した」とあるのでどうしても既視感を感じてしまう。
「ネームプレートに「ヤスヨ」とある」三度目のヤスヨはどうだろうか。旧仮名が入るとテイストが変わってしまう。なぜここなのか。突き抜けた感がないと物足りなく感じてしまう。
ICOCAの歌で結ばれる。やはりⅡ部のテーマは関西なのだろう。I部の終わりをSuicaにするというまとめ方もあったのではと思う。
Ⅲ部に続きます。
――駅に始まり、駅に終わる、洞田明子の第一歌集。231首を収録。――