第25代うたの人「悪」より
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
第25回「うたの人」選抜歌会に参加しました。
6月は自分でもびっくりなのですが、2日連続を2回、今までで最高の4つの薔薇を獲得し、「うたの人」に参加することができました。
題は「悪」でした。むずかしい題ではありましたが、日常の中から悪をすくい出そうと思い、家族の歌を出しました。
錐のような悪態をつく吾子のその心の声に答えられるか
結果は27人中26位とさっぱりでしたが、丁寧な評をいただきました。
・「心の声」という言い回しはちょっと慣用句的
・言いたいことが歌にすべて書かれているようで読者が読みを広げる余地が欲しい
・なんらかの主体のエモーションが入ってほしい
・「答えられるか」を詠わなくても違う角度の言葉の選択でもよかった
多くの評を得られる場に歌を出せたことは良い経験になりました。
私自身が選んだ歌についても紹介します。
特選
しでかした悪事が千里を走るより速く走れば世界新です(nu_ko)
結句の飛ばし方にインパクトがあって、思わず選んでしまう歌です。悪事千里を走るのことわざをあえてまっすぐに捉え直しているのがいいです。シの音の連なりが生んだ躍動感の情景がイメージでき、おもしろいなと感じました。
並選
消えてゆく命をひとつじっと視るハシブトガラスに悪意などない(静ジャック)
ただのカラスではなくハシブトガラスを選んだところと、「悪意などない」と言い切っているところがいいです。上の句の丁寧な描写も、主体の感情をまじえず表現していることによって結句が引き締まるのだと思いました。都会に生活をする人間を覚めた目で見ているようにも思えます。
並選
よしよろしわろしあし そう僕たちを乗せたボートは流されやすい(永昌)
とてもよい、よい、わるい、とてもわるい、という四段階評価を並べてどれを選ぶのかを読者に委ねているのかなと思いました。ここで僕たちを日本国民、ボートを国会なのだと捉えると、何とはなしに現状維持を選んでしまった選挙後の空気感が伝わってきて、「そう」が、確かにそうだなと思わずにいられなくなりました。
並選
悪ガキと呼ばれたアイツが父となり神輿を担ぐふるさとの夏(遠木音)
町会などの地域をまとめていくのは、どちらかというと若いころにやんちゃなことをしている人たちという構図なのでしょう。リズムが気持ちよく、夏祭りの神輿も季節感が感じられてさわやかにまとまっていると思います。
並選
最悪なテストを鞄に突っ込んだままで大きな浮き輪を買いに(ナタカ)
これはシンプルに最悪な感じが伝わってきていいなと思いました。テストの結果がどうであれ、夏はとにかく楽しまなくちゃという解放感が大きな浮き輪というアイテムに投影されていて気持ちがいいです。三句から四句の句またがりは少し引っかかるのですが、このくらいの引っかかりがある方が、テストの最悪感が残るのかもしれません。
並選
ぬばたまの水をたたえた黒い眼に悪夢巡らせ獏はまどろむ(吉川みほ)
悪夢、獏、まどろむと自然なつながりで、見えないものを丁寧に描いているのがいいなと思います。枕詞は黒い眼に掛かるのでしょうが、悪夢も想起させていいです。マ行の音を多用してゆったりと一首を読ませるところが工夫されているなと感じました。
出詠されたほかの歌にも評をつけています。ご興味のある方はどうぞ。