新世代がいま届けたい現代短歌を読む①
短歌ムック「ねむらない樹」の特集「新世代がいま届けたい現代短歌100」を読みます。四人の新世代歌人の選んだ歌を追ってみます。まずは、大森静佳さんの選歌した歌から読みはじめます。
ああなにをそんなに怒っているんだよ透明な巣の中を見ただけ
/盛田志保子『木曜日』
ああなにを
そんなにおこって
いるんだよ
とうめいなすの
なかをみただけ
何に怒るかはその人の本質的な価値を現しているのかもしれない。透明な巣は見るつもりがなかったのに、見てしまったものを想起させる。
あなたが退くとふゆのをはりの水が見えるあなたがずつとながめてた水
/魚村晋太郎『花柄』(退:ど)
あなたがどくと
ふゆのおわりの
みずがみえる
あなたがずっと
ながめてたみず
あなたが動くことで見えるあなたが見ていた世界を、あなたと水のリフレインと幻想的なリズムで迫ってくる。
あなただけ方舟に乗せられたなら何度も何度も手を振るからね
/馬場めぐみ 短歌研究2011年10月号
あなただけ
はこぶねにのせ
-られたなら
なんどもなんども
てをふるからね
ノアの方舟だろうか。受け入れがたい別れに対してもできうる限りの意思を表明したいという強さがリフレインに伝わってくる。
イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く
/初谷むい『花は泡そこにいたって会いたいよ』
いるかがとぶ
いるかがおちる
なにもいって
ないのにきみが
ん とふりむく
とぶイルカ、おちるイルカ、主体、きみとカメラのアングルが切り替わっていくような感覚が楽しい。
おもうからあるのだそこにわたくしはいないいないばあこれが顔だよ
/望月裕二郎『あそこ』
おもうから
あるのだそこに
わたくしは
いないいないばあ
これがかおだよ
おもうからある、わたくしはいない、とデカルトを思わせる深淵なフレーズからの下句に顔の持つ個体識別力を揺さぶられる。