第7回「現代の歌人を読む会」を開催しました(真中朋久さん・東直子さん)
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
9月17日の土曜日に第7回現代の歌人を読む会を開催しました。
今回もはじめてご参加くださった方、久しぶりにいらしてくださった方、続けていらしてくださった方、8名で短歌を鑑賞することができました。申込の段階であわやキャンセル待ちとなるかといううれしい悲鳴を上げておりました。
今回は『現代の歌人140』からも真中朋久さんと東直子さんの歌です。
まずは、真中朋久さん
たはむれに対旋律をたどりゆくわれ斉唱に従ひがたき
君が火を打てばいちめん火の海となるのであらう枯野だ俺は
子がこゑに読むをし聞けばかな多きわが恋歌の下書きなりき
一首目、斉唱というものを否定する主体の意思の強さが感じられる。国歌斉唱のイメージも浮かぶが、対旋律という言葉からはもう少し広く抑圧するものへの抵抗と取りたい。たはむれ、対旋律、たどりゆくと揃えられた上の句の頭韻のなめらかさにも下の句の主張を強めているようである。
二首目、火の海からは熱烈な相聞の思いを想起させるのであるが、あくまでも火をつけるのは君であり、俺は枯野だというシニシズムを感じさせる歌です。俺は燃えたいという気持ちが受動的に描かれており、自らの不器用さは歌でしか表現できないのかもしれないのかもしれません。
三首目、書き溜めていた短歌のノートなどを読まれたのであろうか。かな多きは子がわかる言葉だけを読んだとも、恋歌は仮名にひらいた歌が多いともとれ、楽しい回想を浮かばせる。カ行の音が歌の輪郭を作っていて、この歌をも声に出したくなる。
作品を通して、まっすぐ通った自我を通す芯の強さと、家族への温かなまなざし、気象や鉄道などのモチーフを丁寧に描いている印象を受けました。
続いて東直子さん
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て
好きだった世界をみんなつれてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ
わきみずのようによりそう次男坊ゆきどけみずのような三男
一首目、剥いた桃の皮を新聞の上に置いているのだろうか。廃村を告げる活字が呼び起こす失われていくものに対する寂寥が、結句の一字空きからの「来て」につながる。観察をしているようで、自己の感情は制御できない何かに触れてしまったのであろうか。「来て」欲しい人は「来てくれない」ことをわかっているようにも感じられる。
二首目、上の句のファンタジックな世界観は論理的にも受け止められる。一方下の句のでは大きな喪失を対岸から見ているような不思議な距離感がある。好きだったものをすべて連れて、あなたのカヌーと一緒に燃えるととれば情念的、カヌーは燃えているから、違う場所で自分の好きだった世界を構築し直そうと読めば、怜悧な女性像が浮かび上がる。
三首目、三兄弟の性格の違いがうまく表現されている。しっかりした長男は描かれなくても安心して見ていられるとして、次男は母の気持ちを汲んで寄り添ってくれる優しい存在。三男は少しやんちゃで怖いもの知らずに先へ先へと進む姿が微笑ましい。
作品を通して、立ち上がる世界観が実景と断層なく連なっているところが東さんの歌の不思議な味わいで、一つ一つのパーツを厳密に説明できないのだけれども、読後感の余韻に包まれて、つい引き込まれてしまう感覚がありました。小鳥のモチーフは美しさと自由さを表しているようで、大人の女性のなかにある少女性が年齢を感じさせないみずみずしさを感じました。東さんの門下の竹内さんが、東さんは韻律重視、声に出した時の気持ちよさは極めて大事と言っていたのもすごく伝わってくるものがありました。
記録は記憶が残っているうちに書いておくのが大事ですね。時間が経つと、会の場で話したことと、読み直した自分の感想が一緒になってしまい、独りよがりになりがちなのですが、今回は記憶を振り返りつつ少し引用する歌も増やして、まとめてみました。
今回で、7回14名の歌人を取り上げたことになり、ようやく10%進んだことになります。正直、アンソロジーをよむというわりと地味な企画に、人が集まってくれるのだろうかという心配をよそに、リピートしてくださる方には頭が上がりません。
次回はついに俵万智さんと荻原裕幸さんです。さすがに2時間では終わりそうにないので、休憩込みで3~4時間くらいかけて、『現代の歌人140』『現代短歌の鑑賞101』のほか『Tri』や『率』の特集号なども参考資料として、ライトバースに切り込んでいきたいです。
その後も、次々回が穂村さん、その次が大辻隆弘さん、少し空いて加藤治郎さん米川千嘉子さんと、現代の短歌シーンを引っ張ってくださっている方々が続きます。この豊饒な時代の歌を皆さんと読んでいくことは楽しみでもあります。
日程など決まりましたら、順次告知いたします。ご興味のある方は
メール:seijiota1203☆gmail.com
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優先的にご案内させていただきます。
今回のご参加いただいた皆様さま、二次会に駆けつけてくださった皆さま、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。