太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

推し歌人アンソロジー③(最近のイチ推し歌人編)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

推し歌人アンソロジーです。①影響を受けた歌人、②好きな歌人、に続いて今回は、③最近のイチ推し歌人です。わたしが推すまでもなくすでに注目を集めている方もいますが、できるだけ様々な媒体から歌を紹介します。

 大切なものもそうでもないものも深く座席にあずけてしまう
/北村早紀 NHK短歌2015年11月号

息がきれるくらいなにかをすきになるすきが私の歴史をつくる
/『そしてぴょんすはいなくなった』

君に火をおこしてほしい記憶の中の私がいつでも燃えているように

もうぬるくなってしまった約束をあらためるため対岸に立つ
/『京大短歌』22号

私だけはだかで歩いている夢をふりほどくとき息をひそめて
/『かんざし』第三号

あっちの都合でやさしい人と思われてそういうことにしといてあげよう

 

振りむけばあのひと冬の出来事が綺麗な駅として建っていた
/佐々木遥『洞田』洞田明子歌集

つまりよいふるえにとてもみたされて冬の初めのタワーレコード
/「さざなみ」

留学にも持っていったと思いつつ即席にゅうめんに湯を注ぐ
/『湯舟に乗れ!』山階基トリビュートアンソロジー

みずぎわのつもりで窓ぎわに座り話しはじめるまでの沈黙
/『ぬばたま』第二号

感情をとくに名づけずいたせいで拍車のかかる涙腺の火事

おそなつの夜明けを頬と呼ぶときに感情が思想にかたむいて

 

ストレートパーマを君があてたから春が途中で新しくなる
/武田穂佳「いつも明るい」第59回短歌研究新人賞

携帯をあまり触らない友達のポニーテールは川に似ている

鏡台の椅子の木目を撫でまくる やさしいひとにやさしくしたい

始発待ちながらだんだん冷めていくおしぼりみたいにみじめな気持ち
/「見切られた桃」短歌研究2016年10月号

泣いている顔を見られてそれからはわたしとは手を繋がぬ従姉妹
/『She Loves The Router』

生きてさえいれば 無人の円卓のラスクのざらめがはなさぬ光
/大学短歌バトル2018

 

パレード、パレード 色ひしめいて幸福をここに集めて空っぽの空
/長月優「うたの日」

プラタナスの木陰 だれもが夢をみて自分の価値を信じていたの
/「短歌一武道会」

きっときれいな骨をしているだろう人と夏の終わりに海を見に行く
NHK短歌2016年10月号

祖母ほどの齢のひとの心音をまだ新品の補聴器で聴く
/『かんざし』第三号

投薬の多さがいのちの危うさで食後にじゃらりと錠剤が鳴る

 一週間ごとに実習先は変わっていく
実習を終えてもあなたの闘病は カルテの記載を丁寧にする

 

止まりなさいそこのくちびる止まりなさい路上接吻禁止地区です
/小坂井大輔「短歌くだしゃい」

昨日でも明日でもなく今日があるお腹をむぎゅっとつまむ真夜中
NHK短歌2015年1月号

わたくしは三十五歳落ちこぼれ胴上げ経験未だ無しです
/「スナック棺」第59回短歌研究新人賞候補作

シート倒していいか聞けずに美しい姿勢のままでついた東京
/「夜な夜な短歌集2016年秋号」

傘で電柱を打ちまくっていればそこ一帯はのどかな町です
/「短歌ホリック①」

何ひとつ成し遂げられずに生きてきたランキングがあるならば一位だ
/「短歌ホリック②」

 

吾を求む声を浴びつつ構わざる街行く人にまたなりにゆく
/鈴木秋馬 短歌人2014年8月号 20代30代特集

数桁の数字にすぎぬわれらあり生と死を統ぶ算術のなか
/2015年8月号 20代30代特集

盲ひよりめしひてあらむ太陽をおそるるあまり眼をあけざれば
/2016年8月号 20代30代特集

雨だれと聞きたがへたる針の音に時のしたたるさまをおもひぬ
/2017年8月号 20代30代特集

目にしてはならぬものなりみづからのうしろすがたをうつす鏡は

めざめつつながむる夢のさめざればうつつうつろにうつろふばかり

 

やあ! セルフ全否定くんきみの血のようなたそがれを濡れて帰る
/鈴木ちはね『湾岸幼稚園』

これから抜く歯をきれいに磨いて秋の日の自転車を漕いで歯科医院へ行く
/『墓には言葉はなにひとつ刻まれていなかった』

献血をしたよさよなら僕らの血いろんな人の血と混ざってゆけ

サイゼリア前を二往復してからサイゼでもいいかって入るサイゼリア
/『よい島』

有識者会議の机上いちめんに有識者の数だけの伊右衛門

素手で送りバントさせられる夢を見た 笑い話にできるだろうか

 

夜明け前電子レンジの明るさで昨日のグラスをかるくすすいだ
/浪江まき子「光のあわい」第16回髙瀬賞受賞作

ラッセンの覚悟を思う 絵を描いてお金をもらって生活をして

そこにある光をたしめるようにネガをかざした朝のひかりに

インカメラで家族写真を撮っている後ろを申し訳なく通る
NHK短歌2017年10月号

公園にひとり自撮りを何回も撮る自販機に虫が群がる
/「星に願いを」『めためたドロップスS』

父母(ちちはは)とわたしと無言でカーラジオからX JAPANなぜ今なんだ
/短歌人2018年1月号

 

桃色の粉末透ける薬包紙やぶくのに要るわずかな力
/相田奈緒 NHK2017年3月号

ブランコの鎖をねじってから放つ少しはなれてのたうつのを見る
/短歌人2017年9月号

予防線張らないでいるねむるおきる ねむっている間に返信がある
/短歌人2017年11月号

おろしがねのような夜川を渡るとき私は減少する、御茶ノ水
/短歌人2018年1月号

7億のメールアドレス流出しそれを流した水の体積

冬の川白く凍って対岸の老若男女渡りはじめる
/短歌人2018年2月号

 

全自動わんこごめんね全自動わんこ2のほうがちょっとかわいい
/初谷むい『春の愛してるスペシャル』

エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
/『ぬばたま』創刊号

好きじゃない人が飼ってるハムスターその水を換える好きじゃない人

氷水から氷を出してあなたはぼくの水も氷水にしてくれた
/「なんたる星」2017年8月号

イオンならあるよめがねもなおせるし、げんき レンジでパスタをゆでる
/『ぬばたま』第二号

あたらしいニットが身体に合っている ようこそぼくの身体へニット
/「ワールドエンドに際して」『詩客』

花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

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