第24代うたの人「秘密」より
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
第24代「うたの人」から、いくつかの歌を紹介します。「うたの日」は参加者が続々と増えており、「うたの人」に選ばれた方々の歌を読む楽しみがありますね。
題は「秘密」です。
特選
秘密ねと耳打ちされる回数に友情の濃さを決められた夏(淡水わこ)
友情の「濃さ」という書き方が秘密の持つイメージを強く印象付けていると感じました。濃さは必ずしもよいだけの意味ではなく、共有すればするほど重たくなってくる感じが、耳打ち回数にのせられていて夏とあいまって迫ってくる印象です。
並選
くちびるを近づけながらきみの云ふひみつのみつははちみつのみつ(桔梗)
意味だけを捉えると何も言っていないようにも見えるのですが、秘密って案外そんな他愛もないことなのかもしれません。下の句のひらがな書きされたやわらかな文体が、あどけなさとコケテッシュを感じさせていいなと思いました。
並選
つやつやの石がふたつも盗まれてもう秘密ではないただの基地(ナタカ)
つやつやの石が持つひみつな感じと、なくなったことで失われる回想のような世界観に包まれました。ふたつという数字が絶妙に効いていて、ひとつだったら何かのミスなのでしょうし、みっつ以上だと特別感は失われてしまいます。下の句の韻律を整えると、より喪失感が立つように思いました。
並選
零れゆく秘密のやうだ古備前のうみにゆらめく表面張力(東風めかり)
古備前は器、うみはお酒なのでしょう。いっぱいに満たされた杯の盛り上がった部分を零れゆく秘密と喩えたところはうまいなと思いました。体言止めの字余りが、短歌の器の表面張力そのものを描いているようで面白いです。
並選
それぞれの「死ぬまで秘密」を呑み込んで墓石よ立て 背すじのばして(七緒)
墓場まで持っていく秘密は誰にもありますよね。それぞれの墓石に向かって背すじをのばして立てというコミカルな雰囲気がいいなと思いました。一字空けも命令形を強調していて効果的だなと感じます。
並選を入れた桔梗さんの歌が第24代「うたの人」に輝きました。なかなか上位の歌に票を入れていないことが多いのですが、改めて読みかえすとじわじわときますね。
出詠されたほかの歌にも評をつけています。ご興味のある方はどうぞ。
http://utanohi.everyday.jp/hito/page.php?id=24