太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

書評『WAR IS OVER! 百首』南輝子歌集

ふめば肉体につたはるうおんうおん桜花ふみしむ父踏むやうに
しやりしやりと舎利骨片の音させてこよひ喪の戸へ銀河ふりしく

南輝子の第四歌集は、一冊を通じて亡き父への挽歌であり、平和をこいねがう鎮魂歌で構成されている。桜や骨といった失われた命を彷彿させる言葉を、オノマトペを多用した純度の高い韻律でまとめあげているが、父を失った悲しみは癒えることなく作品に翳を残している。

父がゆする南十字星は夜を越え極東亞細亞に悲しみを生む
あの時もきつと青空はちぐわつのジャワ・ジャカルタの父の青空

赤道を照らす南十字星と抜けるような青空が時空を越えて突き刺さってくるような二首。併録されたエッセイ「イカニツナゲシヤ」によると、南の父は戦時中ジャカルタの軍需工場の責任者を務めており、終戦後、侵略の報復として蜂起した地元住民により虐殺された。また、その死は国の極秘事項として三十五年間隠蔽されていたという。

ROY‐CWRATONE命がゆらぐ水面から輪廻転生譚のはじまるや
三十六年のちも母を恋ふ邦雄味覚歳時記ゆすらうめの章

玲瓏への入会も作風に大きく影響を与えているのだろう。あとがきで語られるロイクラートンは東南アジアの精霊流しの曲であり、母を恋ふる青年塚本への心寄せからも戦争を強く憎む思いが伝わってくる。

はちぐわつの帽子かぶればいつせいに遠き呻きが駆けよつてくる

この歌集を八月号で紹介できることに不思議な縁を感じている。

(短歌人2017年8月号掲載)