太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

書評『古歌そぞろ歩き』島田修三

 著者は愛知淑徳大学学長であり、「まひる野」編集委員を長年にわたって務める古代和歌研究の第一人者である。本書は記紀万葉から近世までの古歌を広く一般読者に紹介した足掛け四年にわたる連載をまとめた一冊。「春、夏、秋、冬、賀、相聞・恋、挽歌・哀傷歌、旅、雑歌」と広く題材をとりながら、特定の時代に片寄ることなく折々の名歌、秀歌二百首を深い造詣をもって丁寧に鑑賞している。

 春は志貴皇子「石(いは)走(ばし)る」の歌から始まる。「声に出して読みあげてみると、凛と張って、しかも伸びやかな調べがなんとも心地よい」と歌としての韻律の良さとともに、ひとつひとつの言葉や歌の背景を解説しており引き込まれる。春には菫、梅、桜と花の歌が多く取り上げられており、花鳥風月を愛でる古来の営みを感じさせる。

 相聞・恋の歌では、百人一首でもおなじみの平兼盛「忍ぶれど」と壬生忠見「恋すてふ」の歌が並べられている。これらは「天徳内裏歌合」の題詠「恋」の二首である。判者が評を決めかねて村上天皇の気配を察し、ようやく兼盛の勝ちが決まったというエピソードも合わせて読むと、古歌がより身近なものに感じられ思わず微笑んでしまう。

 著者あとがきにも「本書には万葉復興期を生きた曾禰好忠源俊頼、また田安宗武良寛、橘曙覧をはじめとする江戸の万葉ぶりの歌人が多い」とあり、万葉から連綿と伝わる歌のエッセンスを現代の歌人に伝えていきたいという思いが溢れるようである。

(短歌人2017年7月号掲載) 

古歌そぞろ歩き

古歌そぞろ歩き