太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

書評『黄色いボート』原田彩加歌集

書肆侃侃房新鋭短歌シリーズ第三期として出版された著者の第一歌集。やわらかな感性と対象への温かくも細やかな観察眼がひかる。

スプーンを水切りかごに投げる音ひびき続ける夜のファミレス

現代歌人協会主催全国短歌大会で朝日新聞社賞を受賞した一首。都会の夜中にはたらく人への共感を音で捉えた感受性がやさしい。

さりげなく花の記憶を分け合って路線図のごと別れていくか
嫌わずにいてくれたことありがとう首都高速のきれいなループ

都市にある人工物を、まるで生物のように描いているのもユニークな着眼である。別れのときに感じた花の記憶を路線図の複雑な図形に昇華させ、蔦のようにループするジャンクションを俯瞰して、その距離感をどこか冷めた都会の人間関係のように描いている。

岡山発南風5号ふるさとの空の青さが近づいてくる
庭中の花の名前を知っている祖母のつまさきから花が咲く

故郷の高知に帰省する一連は、ひかりあふれるような明るさが立ち上がり、読者を旅の世界へ連れていってくれるかのようだ。歌集に頻出する花の名前は故郷の祖母から受け継いだ大切な宝物なのだろう。

行列がなくなり水が腐っても撤去されない黄色いボート

歌集タイトルの「黄色いボート」の歌からは変わっていく世界に対して、変わらないものがきっとあるはずという声が伝わってくる。監修・解説も担当された東直子さんの挿画が優しく歌集をつつんでいる。

(短歌人2017年6月号掲載) 

黄色いボート (新鋭短歌シリーズ31)

黄色いボート (新鋭短歌シリーズ31)