短歌研究2月号「相聞・如月によせて」
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
短歌研究2月号の「如月・相聞に寄せて」から、鳥居さんの連作を中心に引用します。
【指先】
指先でひかりを剥いでゆくやうにあなたのしろいページを捲る
/「bibliophile」鳥居暗やみにふれようとする指その指の冷たいことはもう知っている
/「つららと雉」黒﨑聡美
【指紋】
まだ硬き背に添はせゆく柔らかな歯形、あるいはさやかな指紋
/「bibliophile」鳥居幾千の語を一瞬に消し去れど指あと残すスマートフォンは
/「燻る朝」田村ふみ乃
【余白】
余白より文字はしづかで青杉の翳のさやげる季節に入りぬ
/「bibliophile」鳥居君からの手紙が来ない日は余白 新潮文庫をココアに沈め
/「もつ鍋の煮えるころ」武田穂佳
【繭】
たましひが繭となるまで行間の淡き孤独をみつめてゐたり
/「bibliophile」鳥居羽化しない蛹の私ほどかれて一本の糸 六月の繭
/「六月の繭」晴山生菜
【花】
その胸をひらきゆくとき仰向けに花の名前を教えてくれる
/「bibliophile」鳥居ふかぶかと釦を留めるとめどなく木漏れ日と花びらが降る日に
/「長い眠り」飯田彩乃
【風】
交はりを終へた疲れに閉ぢゆけば君がほのかに孕む夕風
/「bibliophile」鳥居乳首を嚙めば吹雪を着るようにさびしくなりぬ 永遠は無理
/「無理」北山あさひ
【火】
みぞおちが火を焚くやうに痛むのだ栞はさみて別れゆくとき
/「bibliophile」鳥居横向きに眠ればそちらへ堕ちていく内臓のすべてが濡れている
/「足りない」鈴木晴香