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太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

一歌談欒 vol.2(中澤系「理解できない人は下がって」)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

各自が自分のメディアで一首評をする「一歌談欒」の2回目です。今回は中澤系さんの代表ともいえる歌を取り上げます。

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって

/中澤系『中澤系歌集 uta0001.txt』

 

3番線を快速電車が通過します。危ないですから、黄色い線(の内側)までお下がりください。

という、駅で日々流されるアナウンスの「お下がりください」の部分を「下がって」と端的な指示に変えることで、ものすごく突き刺さる鋭さを持った短歌になっている。

上句は686なのに余っている感じがないのは、普段から聞き慣れた言葉なのと、サ行(3・線・速・車・します)の連続とan(3・番) en(線・電) ai(快) uu(通)の韻律がリズムを生んでいるのだろう。だからこそ、下の句の指示がより際立って強く響くのではないだろうか。 

「3番線を快速電車が通過する」こと自体を理解できない人はいないだろう。が、「何を理解するか」、「理解できる人はどうすればいいのか」という問題は後回しにして、とにかく「理解できない人は下がって」と叫びのようなメッセージを発することには、あたかも自分の表現を理解できないであろう人を寄せ付けない頑なさを感じてしまう。

歌集中、「電車」「駅」といったモチーフは繰り返し登場する。また「システム」という言葉に象徴される、世の中にあらかじめ決められたルールを遅滞なく処理していくかのような世界観が構築されている。その「システム」と日常世界との境界線が快速電車が通過するホームのギリギリのラインなのではないだろうか。

注意深く世の中を生きている人は「3番線快速電車が」くらいで身を引いて、世界との適切な距離を保って生きていくはずだと思う。世界とシステムを「理解したい」人がいて、アナウンスを聞いてもなお「下がらずにいる」というスタンスをとる可能性を、暗黙の裡に感じさせる強さがある。

 

私が短歌をはじめてまもない頃、「中澤系」という歌人の著書を復刻したいと強く願う方の思いが、また、本人が生きていたら最終稿はこのようになったはずというご家族の思いが、多くの歌人の協力を得て復刻版という形で書籍になったことを知った。

2015年春の文学フリーマーケットで購入したこの歌集を開き、冒頭に突きつけられた「理解できない人は下がって」というメッセージを、勝手に短歌という世界に置き換えて「理解はできていないけれども、なんとか理解できるようになりたい」と感じながら歌集を読んだときのことを思い返した。

uta0001.txt―中澤系歌集

uta0001.txt―中澤系歌集