太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

第8回現代の歌人を読む会を開催しました(俵万智さん、荻原裕幸さん)(1)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

第8回現代の歌人を読む会を開催しました。この読書会もようやく軌道にのってきた感じで、参加したいと言ってくださる方も増えてきました。

今回は、はじめての方が4名もご参加くださって、あわせて9名で短歌を鑑賞しました。

俵万智さんと言えば『サラダ記念日』30周年ということで、特別に3時間の拡大バージョンです。自己紹介のときに、はじめて読んだ歌集を聞いてみると多くの方が『サラダ記念日』をはじめとして俵万智さんの歌集をあげていました。

 

まず『現代短歌の鑑賞101』より、『サラダ記念日』に収録された歌を読みました。

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている

愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

一首目、主体の内面にある発見が的確な比喩で表現されている。下句の「どうでもいいよというような」(特に、いいよと)という言葉のスペースやの作り方や息のつき方が愛唱性を生む。「嘘」と「海」もリズミカルに呼応している。

二首目、当たり前のことを当たり前に言っている、だから何、と言いたくなるけれど、「寒いね」という会話のリフレインにいやおうことなく納得してしまう。答える「人」が、恋人でも、友人でも、親子でも、関係性を越えて成り立つ普遍的な共感を生んでいる。「~いる」+5文字の体言止めはよく出てくる。

三首目、ありふれたシーンを描きながらも、どこか欠落感がある。二句の字足らず、句割れが自然で驚く。砂浜のランチ/ついに手つかずの、とも読める。「ランチ」「ついに」「手つかず」「卵」とタ行の音が乾いたリズムを生む。「砂浜」と「サンド」のつき方もいい。

四首目、テレサ・テンの「愛人」のことであろう。時代性があり、女性の強さを感じる。「愛人で」は、誰にどのくらいの感情を寄せているのかが様々に読める。「いいのとうたう」と「じゃないのと思う」という「の」でつなぐ対句の構造も自然に読める。『チョコレート革命』につながる印象を持つ。

五首目、「記念日」という概念を作り出したともいえる歌。ここは「君」である必然性がある。「この味がいいね」というこの言葉を聞きたいと思っているすべての人のために、音の調べや主題の提示を考えつくしているよう。まさに、原作・脚色・主演・演出=俵万智の代表と言える歌である。

 

どの歌にも、どうしてこんなにも共感してしまうんだろうと、熱の入った会話の応酬となりました。予定していた時間を大幅に過ぎて、ここまでで2時間も経ってしまいました。

 

後半は、『かぜのてのひら』以降の歌と荻原裕幸さんの歌を読みました。

記録も次回に続きます。

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

 

 

現代短歌の鑑賞101 (ハンドブック・シリーズ)

現代短歌の鑑賞101 (ハンドブック・シリーズ)