太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

短歌人2016年6月号 同人1欄より

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

歌人2016年6月号同人1欄の掲載作品を紹介します。


義父と指す迷人戦の一局は常に私の☗7六歩から 藤田初枝「疑惑」
初手7六歩と指すのは、将棋で一番オーソドックスな手である。ここからどのような展開になるかは棋風次第なのだが、常に先手を持つというところから、ほんの少しのハンデをもらっているのかもしれない。迷人戦は名人戦のパロディなのだろうが、趣味を同じくするものの心安さが伝わってくる。


かすみ立つ偕楽園の梅の花いろは匂えというがごとくに 武藤ゆかり「春のことぶれ」
偕楽園は水戸にある日本三名園に数えられる公園であり、とりわけ梅の花が有名である。この梅の花をかすみに見立てた情景の切り取り方によって浮かぶイメージが、いろは歌の調べと響き合って、その香りに嗅覚まで刺激を受けるようだ。


小名木川左岸に浮かぶ花筏わが見ておればしばしとどまる 川田由布子「見頃」
小名木川は東京の東側にある家康の代に作られた運河である。河岸には多くの桜が連なっており、見頃を楽しむ人でにぎわう。左岸の響きは花筏をくっきりと浮かび上がらせて気持ちがよい。結句は自分のために流れをとめてくれたような心持ちが感じられる


あら素麺と声高らかにわが妻はエンゼルパスタを迎え入れたり 中地俊夫「エンゼルパスタ」
エンゼルパスタはカッペリーニとも呼ばれる細いパスタである。見た目はまさに素麺そっくりなのであろう。わが妻は見た通りの感想を述べたのであろうが、その声色を声高らかに「あら素麺」と言いながら、明るく好奇心を持って迎え入れている様子が浮かぶようである。


馴染むとは膨らめること手にふわり開く旧版国語の辞典 おのでらゆきお「文学散歩」 
歌を作るようになって辞書を引く機会が増えた。長年歌を作り続けている方にとっては、手になじむ辞書の膨らみこそ作歌の楽しみを体現しているものなのであろう。旧版の辞書を手になじむまで使い続けている姿勢に敬意を表し、辞書アプリやグーグルにばかり頼らずに、手になじむ辞書を引く機会を増やしていかなければと感じる。


憲法の前文を読み暗記する宿題はあり輝く昨日 藤原龍一郎「花ひらく」
憲法前文は「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」と結ばれている。日本人であれば必ず教わっているはずの憲法の内容が、輝く昨日という過去形によって切り取られていることは見逃せない。憲法を前文を含めて読み返し、湧き出てくるものを自分の言葉で表現したいと感じた。