千歳烏山歌会に参加しました
3月25日の日曜日に千歳烏山歌会に参加しました。この歌会は五首の記名連作の互評をおこなうのですが、今回は十五首で発表した作品のラスト五首を評してもらいました。
無記名一首を評するときは、その歌自体がもつ意味や調べをテキストのみをベースにひも解いていくのですが、五首あると作者の文体や技法の使い方の傾向、作歌の奥にあるそれぞれの価値観を、また五首の作品のなかでどの歌がよいかといった、同じ作者の歌を比較して読むという経験ができました。
また、自分の歌に対しても、歌そのものの強度のバランス感や、歌と歌の行間に込めた思いなども汲んでもらえてうれしかったです。
会場の採光がすばらしく、景色をみながら桜餅をいただき、少しだけ花見の気分を味わうことができました。
懇親会も、早めの時間からたっぷりと話をすることができて、どのように短歌と向き合っていきたいのかなどを、異なる結社の方々と話をすることができました。
参加者の皆さま、どうもありがとうございました。
推し歌人アンソロジー③(最近のイチ推し歌人編)
推し歌人アンソロジーです。①影響を受けた歌人、②好きな歌人、に続いて今回は、③最近のイチ推し歌人です。わたしが推すまでもなくすでに注目を集めている方もいますが、できるだけ様々な媒体から歌を紹介します。
大切なものもそうでもないものも深く座席にあずけてしまう
/北村早紀 NHK短歌2015年11月号息がきれるくらいなにかをすきになるすきが私の歴史をつくる
/『そしてぴょんすはいなくなった』君に火をおこしてほしい記憶の中の私がいつでも燃えているように
もうぬるくなってしまった約束をあらためるため対岸に立つ
/『京大短歌』22号私だけはだかで歩いている夢をふりほどくとき息をひそめて
/『かんざし』第三号あっちの都合でやさしい人と思われてそういうことにしといてあげよう
振りむけばあのひと冬の出来事が綺麗な駅として建っていた
/佐々木遥『洞田』洞田明子歌集つまりよいふるえにとてもみたされて冬の初めのタワーレコード
/「さざなみ」留学にも持っていったと思いつつ即席にゅうめんに湯を注ぐ
/『湯舟に乗れ!』山階基トリビュートアンソロジーみずぎわのつもりで窓ぎわに座り話しはじめるまでの沈黙
/『ぬばたま』第二号感情をとくに名づけずいたせいで拍車のかかる涙腺の火事
おそなつの夜明けを頬と呼ぶときに感情が思想にかたむいて
ストレートパーマを君があてたから春が途中で新しくなる
/武田穂佳「いつも明るい」第59回短歌研究新人賞携帯をあまり触らない友達のポニーテールは川に似ている
鏡台の椅子の木目を撫でまくる やさしいひとにやさしくしたい
始発待ちながらだんだん冷めていくおしぼりみたいにみじめな気持ち
/「見切られた桃」短歌研究2016年10月号泣いている顔を見られてそれからはわたしとは手を繋がぬ従姉妹
/『She Loves The Router』生きてさえいれば 無人の円卓のラスクのざらめがはなさぬ光
/大学短歌バトル2018
パレード、パレード 色ひしめいて幸福をここに集めて空っぽの空
/長月優「うたの日」プラタナスの木陰 だれもが夢をみて自分の価値を信じていたの
/「短歌一武道会」きっときれいな骨をしているだろう人と夏の終わりに海を見に行く
/NHK短歌2016年10月号祖母ほどの齢のひとの心音をまだ新品の補聴器で聴く
/『かんざし』第三号投薬の多さがいのちの危うさで食後にじゃらりと錠剤が鳴る
一週間ごとに実習先は変わっていく
実習を終えてもあなたの闘病は カルテの記載を丁寧にする
止まりなさいそこのくちびる止まりなさい路上接吻禁止地区です
/小坂井大輔「短歌くだしゃい」昨日でも明日でもなく今日があるお腹をむぎゅっとつまむ真夜中
/NHK短歌2015年1月号わたくしは三十五歳落ちこぼれ胴上げ経験未だ無しです
/「スナック棺」第59回短歌研究新人賞候補作シート倒していいか聞けずに美しい姿勢のままでついた東京
/「夜な夜な短歌集2016年秋号」傘で電柱を打ちまくっていればそこ一帯はのどかな町です
/「短歌ホリック①」何ひとつ成し遂げられずに生きてきたランキングがあるならば一位だ
/「短歌ホリック②」
吾を求む声を浴びつつ構わざる街行く人にまたなりにゆく
/鈴木秋馬 短歌人2014年8月号 20代30代特集数桁の数字にすぎぬわれらあり生と死を統ぶ算術のなか
/2015年8月号 20代30代特集盲ひよりめしひてあらむ太陽をおそるるあまり眼をあけざれば
/2016年8月号 20代30代特集雨だれと聞きたがへたる針の音に時のしたたるさまをおもひぬ
/2017年8月号 20代30代特集目にしてはならぬものなりみづからのうしろすがたをうつす鏡は
めざめつつながむる夢のさめざればうつつうつろにうつろふばかり
やあ! セルフ全否定くんきみの血のようなたそがれを濡れて帰る
/鈴木ちはね『湾岸幼稚園』これから抜く歯をきれいに磨いて秋の日の自転車を漕いで歯科医院へ行く
/『墓には言葉はなにひとつ刻まれていなかった』献血をしたよさよなら僕らの血いろんな人の血と混ざってゆけ
サイゼリア前を二往復してからサイゼでもいいかって入るサイゼリア
/『よい島』素手で送りバントさせられる夢を見た 笑い話にできるだろうか
夜明け前電子レンジの明るさで昨日のグラスをかるくすすいだ
/浪江まき子「光のあわい」第16回髙瀬賞受賞作ラッセンの覚悟を思う 絵を描いてお金をもらって生活をして
そこにある光をたしめるようにネガをかざした朝のひかりに
インカメラで家族写真を撮っている後ろを申し訳なく通る
/NHK短歌2017年10月号公園にひとり自撮りを何回も撮る自販機に虫が群がる
/「星に願いを」『めためたドロップスS』
桃色の粉末透ける薬包紙やぶくのに要るわずかな力
/相田奈緒 NHK2017年3月号ブランコの鎖をねじってから放つ少しはなれてのたうつのを見る
/短歌人2017年9月号予防線張らないでいるねむるおきる ねむっている間に返信がある
/短歌人2017年11月号おろしがねのような夜川を渡るとき私は減少する、御茶ノ水
/短歌人2018年1月号7億のメールアドレス流出しそれを流した水の体積
冬の川白く凍って対岸の老若男女渡りはじめる
/短歌人2018年2月号
全自動わんこごめんね全自動わんこ2のほうがちょっとかわいい
/初谷むい『春の愛してるスペシャル』エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
/『ぬばたま』創刊号好きじゃない人が飼ってるハムスターその水を換える好きじゃない人
氷水から氷を出してあなたはぼくの水も氷水にしてくれた
/「なんたる星」2017年8月号イオンならあるよめがねもなおせるし、げんき レンジでパスタをゆでる
/『ぬばたま』第二号あたらしいニットが身体に合っている ようこそぼくの身体へニット
/「ワールドエンドに際して」『詩客』
前川さんと鳥居さんの話を聞きました
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
3/18に専修大学で開催された、前文部事務次官の前川喜平さんと歌人の鳥居さんのトークイベントに参加しました。
最初に鳥居さんの歌がいくつか紹介されたのち、鳥居さんの話がありました。鳥居さんがなぜセーラー服を着ているのか、どうして短歌を作っているのか、ようやく手に入れた夜間中学生活で直面した課題を聞かせてくれました。
どうして発展途上国の児童や生徒が学校に通えるように基金をつくっているのに、自国の普通教育を受けられなかった人に対して支援をしないのだという問いは権利を当然のように受けている人間の配慮の足りなさを指摘するものでした。また、現状の夜間中学の生徒はほとんどが外国人であって、実態は語学教室であり、学習をやり直したいというニーズに答えていないという事実も教えてくれました。
続いて前川さんの話では、行政は前例踏襲を基本としているので、行政が単独で何かを変えるのがむずかしいと聞きました。また、実際の法案が通ったのち、国・都道府県・市町村のそれぞれの行政がどのように動いているのか、また、超党派の議員が協力して法案を通すという、与野党の対立だけではない政治の世界のダイナミズムを詳しく説明してくれました。
クロストークでは、前川さんが歌舞伎町で実際に会った人の話からプロレスの話、そして万葉集へと至るエキサイティングな対談でした。鳥居さんの質問には前川さんもびっくりしていましたが、誹謗中傷に値する事実がなかったことをメディアの前で証言する機会を提供しようとしていたと気がついてじんわりとしました。
鳥居さんは、現実を受け入れてサバイブしていくために必要なことは孤独を恐れないということを教えてくれました。高校や大学への進学意欲があって、教育についても学びたいと言っているのが心に残りました。前川さんは「義務教育」ではなく「普通教育をあまねく国民が受ける権利を国が保障する」べきだという持論と、他者の意見を悪意と取るのではなく意見の異なる人の話もまず聞いて、それでも話が違う人とはうまく距離をとるという、誠実で懐の広さを感じました。
前川さんの愛読書が、斎藤茂吉の『万葉秀歌』ということを聞いてとても親近感がわきました。また、基本的人権が奪われた人を社会がどのようにすくい上げることができるのかという命題と、文学は生きる力となり得るのだという事実に、畏敬の念を感じました。
鳥居さん、前川さん、企画を立ててくださったみなさま、このイベントを教えてくださった岸原さんに感謝いたします。
短歌人3月東京歌会に参加しました
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
東京歌会に参加しました。今日の詠草は40首でした。少し遅れていったのですが、ちょうど自分の歌の評に間にあってよかったです。複数の方の読みを聞くといろいろな発見がありました。一方で歌の読みを自分の経験にだけ基づいて固定するのはどうかと思う評もあり、気持ちのよい場を維持していかなければと思う瞬間もありました。
歌会のあとの研究会はミニシンポジウム形式で、前衛短歌について話を聞きました。2時間でパネリスト4人は時間が足りない感じはありましたが、当時の時代背景や方法意識を聞くと読み方が変わってきそうです。塚本自身の人間がにじみ出る歌がやはりあるようで、時間を掛けて第一歌集から読みすすめてみたくなりました。
諸々あって懇親会はパスして、甘いものだけ食べて帰ります。
短歌人東京歌会にご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、メッセージなどいただければご案内します。どうぞよろしくお願いいたします。
参加者、パネリストのみなさまどうもありがとうございました。
字空けの効果について
こんにちは、短歌人の太田青磁です。
このところタイムラインに流れてくる歌になんとなく一字空けがたくさん使われているように感じています。その一字空けが本当に必要なのかなあ、と余計なことを感じたりしているのですが、では何が効果的な一字空けなのかと考えてみます。一字空け(二字空けや句読点との組み合わせを含め)が効果的に決まっていると思う歌を引用します。
ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて
/永田紅『日輪』
ああきみが
とおいよつきよ
したじきを
はさんだままの
のおとかたくて
5-7-(1)-5-7-7
距離を示す一字空けである。物理的なのか心理的なのかは示されないが、遠い君を思う気持ちは、月夜の冴えわたるような空気と下敷きの硬質な感じに遮られて、切なさを伴って訴えてくる。整った韻律のなか「ああ」という詠嘆の入りに対して、一首全体のオ段音の籠もった音がもどかしさを伝えてくる。
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり きて
/東直子『春原さんのリコーダー』
はいそんを
つげるかつじに
もものかわ
ふれればにじみ
-ゆくばかり きて
5-7-5-4-8-(1)-2
場面の転換となる一字空けである。新聞の上で桃の皮を剥いているのであろう。桃の果汁によって文字が滲む、その濃密さが主体の何かに訴え、思わず「きて」と声を発したのかもしれない。空虚な廃村の記事から桃、そして主体の心へと一気にテンションが高まっているのが、句またがりと一字空けで示される。
この春のあらすじだけが美しい 海藻サラダを灯の下に置く
/吉川宏志『夜光』
このはるの
あらすじだけが
うつくしい
かいそうさらだを
ひのしたにおく
5-7-5-(1)-8-7
意味の一意性のための一字空けである。美しいは海藻サラダに掛かるのではなく、終止形で独立している。上句の抽象的なイメージを下句の具体的な主体の行為で受ける構造であるが、上句は「この」「だけが」とふたつも限定の言葉が使われているが、下句との呼応や「あらすじ」をどう捉えるかは読者に委ねられている。
月を見つけて月いいよねと君が言う ぼくはこっちだからじゃあまたね/永井祐『日本の中で楽しく暮らす』
つきをみつけて
つきいいよねと
きみがいう
ぼくはこっちだから
じゃあまたね
7-7-5-(2)-9-5
月をみつけた君の声によって主体も上を向く。そしていっしょに月を見たあとで、自分の帰り道をこっちだからと示す。二字空けというたっぷりとした時間の中に、視線が上から後ろへまわるような感覚がある。そして、下句の三連符のような9音ののちの5音の欠落感にも、二字空けが余韻として効いている。
うつむいて並。 とつぶやいた男は激しい素顔となった
/斉藤斎藤『渡辺のわたし』
うつむいて
なみ と
つぶやいた
おとこははげしい
すがおとなった
5-(2+4+1)-5-8-7
一字空けが1音のモーラになることは韻律の感覚としてよくわかる。句点はほぼ倍の効果がある。この歌では、句点+一字空けを4音のモーラと捉えるとほぼ定型として読むことができる。声だけの男が激しい素顔に変わるその瞬間を、無音の時間として示すことで、牛丼屋の日常風景を浮かびあがらせている。
合同批評会「羊歯とボート」に参加しました
3月3日のひな祭りの日に、原田彩加さんの『黄色いボート』と國森晴野さんの『いちまいの羊歯』の合同批評会に参加しました。
前半は『黄色いボート』『いちまいの羊歯』のそれぞれについて、3名のパネルディスカッション形式で、一冊を丁寧に読みすすめて行きました。
『黄色いボート』のパネルはまひる野の今井恵子さん、率の平岡直子さん、塔の花山周子さんでした。
原田さんの短歌は、きれいで読みやすくすっと心に入ってくる歌が多かったです。働く女性として共感の高い歌が多く、3名のパネリストの持つ感覚が比較的近いように思えました。表題の歌をどう読むかについては意見がいろいろと出ました。
『いちまいの羊歯』のパネルはかばんの佐藤弓生さん、短歌人の内山晶太さん、pool ・[sai] の石川美南さんでした。
國森さんの歌は、言葉の持つモチーフに乗れるかどうかで大きく読みが分かれるのかなと感じました。専門用語をもとの意味と比べたり、身体のイメージを擬人化していたり、概念がそのまま比喩になっていたりと、きちんと読もうとすると読みきれないというのは言われて納得でした。
後半は6名のパネリストが、お互いの作品についての評を述べたり、使われる語彙の相似性など東直子教室の特徴などが指摘され、時間があっという間に流れていく感じでした。
会場からの発言、監修者のあいさつ、著者お二方の感謝と抱負が述べられ、あたたかい空気につつまれた、居心地の良い時間を過ごすことができました。
東さんのもとに集まっている方々のホスピタリティの高さに誘われるままに懇親会と3次会にまで参加してしまいましたが、作者の持つ文体と一首の持つフォルムの違いなどパネルディスカッションで聞ききれなかった話や、結社・同人・カルチャーセンターの違いなどをたくさん話すことができました。
楽しい時間をありがとうございました。
無いものは無いとせかいに言うために指はしずかに培地を注ぐ
終わらせたこころをひとつD列の鳥卵標本箱におさめる
切りすぎた前髪のまま追いかけるわたしは雨のはじまりに立つ
/國森晴野『いちまいの羊歯』
嫌わずにいてくれたことありがとう首都高速のきれいなループ
岡山発南風5号ふるさとの空の青さが近づいてくる
庭中の花の名前を知っている祖母のつまさきから花が咲く
/原田彩加『黄色いボート』
短歌人2017年6月号に『黄色いボート』の書評を書きました。
短歌人2018年3月号
推し歌人アンソロジー②(好きな歌人編)
美術史をかじったことで青年の味覚におこるやさしい変化
/笹井宏之『ひとさらい』
骨盤のゆがみをなおすおかゆです、鮭フレークが降る交差点
単純な和音のままでいましょう、とあなたは朝のひかりの中で
水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って
影だって踏まれたからには痛かろう しかし黙っている影として
天井と私のあいだを一本の各駅停車が往復する夜
長くながくひこうき雲の引かるるを二足歩行は見上げていたり
/染野太朗『あの日の海』休職を告げれば島田修三は「見ろ、見て詠え」低く励ます
海を見に行きたかったなよろこびも怒りも捨てて君だけ連れて
/同『人魚』川で子ども海で子どもと遊ぶような不安を今日もいじめぬきたり
もし煙草を吸えたなら今あなたから火を借りられた揺れやまぬ火を
手水舎を囲む手のみな濡れびかりはづかしきまで動いてゐたり
/同「恋」(「文學界」2017年7月号)
かの人も現実にありて暑き空気押し分けて来る葉書一枚
/花山多佳子『空合』〈あの人つて迫力ないね〉と子らがささやくあの人なればわれは傷つく
〈柿死ね〉と言つてデッサンの鉛筆を放り出したり娘は
/同『春疾風』大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり
/同『木香薔薇』つぎつぎに「おじやましました」と言ふ声の聞こえて息子もゐなくなりたり
爪楊枝のはじめの一本抜かんとし集団的な抵抗に会ふ
/同『晴れ・風あり』
ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろはれしのみ
/永井陽子『なよたけ拾遺』べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊
/同『樟の木のうた』あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ
/同『ふしぎな楽器』十人殺せば深まるみどり百人殺せばしたたるみどり安土のみどり
/同『モーツァルトの電話帳』ぬけぬけと春の畳に寝てゐたり御伽草子の長者のごとく
ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり
うどん屋の饂飩の文字が混沌の文字になるまでを酔う
/高瀬一誌『喝采』
カメを買うカメを歩かすカメを殺す早くひとつのこと終わらせよ
「半熟卵は半殺し」どこからかこの唄がきこえて来たる
ワープロからアアアの文字つづけばふたりして森閑とせり
/同『レセプション』
フリュートを吹く女こそ横たえてみよ暮らしてもみよ
吊るす前からさみしきかたちになるなよおまえトレンチコート
みづからを縊死せし枯れ葉こなごなになりて天へと開けり風よ
/「慈母蛆期」藪内亮輔『率』9号
引き絞るあなたを見てゐた引き絞られてつひにはなたれぬ涙を
唇あまた滅びてのちに一度だけふれし夜雨に海がけぶれり
水は水、風は風へと落ちてゆきたましひの辺の枯れ葉を絞る
/「心酔をしていないなら海を見るな」同『率』10号白鷺が遠くかなたに目覚めたりわたしはミルクをあたためてゐる
/「雨と光と海」同『京大短歌』21号草原の下に昨日の雨ありて抱くなよふかく雨は地を刺す
/「くち」同22号
入水後に助けてくれた人たちは「寒い」と話す 夜の浜辺で
/鳥居『キリンの子』
水筒の中身は誰も知らなくて三階女子トイレの水を飲む
鉄棒に一回転の景色あり身体は影と切り離されて
指先でひかりを剥いでゆくやうにあなたのしろいページを捲る
/「bibliophile」『短歌研究』2017年2月号
余白より文字はしづかで青杉の翳のさやげる季節に入りぬ
その胸をひらきゆくとき仰向けに花の名前を教えてくれる
- 作者: 笹井宏之,加藤治郎
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推し歌人アンソロジー①(影響を受けた歌人編)
タイムラインに流れてきた、推し歌人アンソロジーの企画に合わせて、①影響を受けた歌人、②好きな歌人、③最近のイチ推し歌人をあげてみます。まずは影響を受けた歌人です。
砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている
/俵万智『サラダ記念日』
「寒いね」と話かければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら
/同『風の手のひら』
優等生と呼ばれて長き年月をかっとばしたき一球がくる
/同『チョコレート革命』
焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き
自動販売機とばあさんのたばこ屋が自動販売機と自動販売機とばあさんに
/斉藤斎藤『渡辺のわたし』
雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁
宗教も文学も特に拾わない匙を医学が投げる夕暮れ
/同『人の道、死ぬと町』
静岡の長さに負けて三〇〇円コーヒーを買う行きも帰りも
二日後の河北新報朝刊の「生きてほしい。」ではじまる社説
つつましき花火打たれて照らさるる水のおもてにみづあふれをり
/小池光『バルサの翼』
廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり
/同『廃駅』
佐野朋子のばかころしたろと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず
/同『日々の思い出』
機械山羊に紙食はしむるたのしみや機械山羊とはシュレッダーなり
/同『草の庭』
経験は命題の意味をものがたりせず命題の真偽を教えくるるのみ
銀杏が傘にぼとぼと降つてきて夜道なり夜道なりどこまでも夜道
/同『静物』
疾風にみどりみだるれ若き日はやすらかに過ぐ思ひゐしより
/大辻隆弘『水廊』
ドリブルの音の絶えたる真昼間はふかぶかと夏を待つ体育館
青春はたとへば流れ解散のごときわびしき杯をかかげて
あけがたは耳さむく聴く雨だれのポル・ポトといふ名を持つをとこ
/同『抱擁韻』
受話器まだてのひらに重かりしころその漆黒は声に曇りき
紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき
/同『デプス』
次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く
/奥村晃作『三齢幼虫』
不思議なり千の音符のただ一つ弾きちがへてもへんな音がす
/同『鴇色の足』
ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文房具店に行く
転倒の瞬間ダメかと思ったが打つべき箇所を打って立ち上がる
/同『ピシリと決まる』
権太坂完全舗装されたれどその道の持つ傾斜変わらず
/同『キケンの水位』
/同『スキーは板に乗ってるだけで』
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千歳烏山歌会に参加しました
未来の嶋稟太郎さん主催の千歳烏山歌会に参加しました。
メンバーは未来の方が中心で、銀河集、夏韻集、彗星集の方々に加えて、塔、短歌人、所属なしの方と幅広い感じですが、夏韻集首都歌会でご一緒している方が多く、安心して参加できました。
記名5首を各自持参し披講のうえ批評を受けるというスタイルで、夏韻集首都歌会をより深くしたような形式で進みました。
5首あるとそれぞれの文体やテーマ、言葉の選び方に特徴が出ていて、読み手としても楽しめる会でした。
わたしは作成中の連作の一部を出したのですが、たくさんのフィードバックをいただき、得られるものがとても多かったです。
5首あると、手癖のようなものも如実にあらわれるもので、この部分も客観的にみることができる歌会でした。
夕方の早い時間に解散し、有志で二次会へ。
刺身や貝などをつまみながら、フランクに歌の背景などを振り返り、それぞれのスタイルを大切にできる場を大切にしたいな、と感じました。
嶋さん、参加者の皆さま。どうもありがとうございました。