太田青磁の日記

There's no 'if' in life… こんにちは、短歌人の太田青磁です。

推し歌人アンソロジー②(好きな歌人編)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

①影響を受けた歌人に続いて、②好きな歌人をあげてみます。

美術史をかじったことで青年の味覚におこるやさしい変化

/笹井宏之『ひとさらい』

骨盤のゆがみをなおすおかゆです、鮭フレークが降る交差点

単純な和音のままでいましょう、とあなたは朝のひかりの中で

水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って

影だって踏まれたからには痛かろう しかし黙っている影として

天井と私のあいだを一本の各駅停車が往復する夜

 

長くながくひこうき雲の引かるるを二足歩行は見上げていたり
/染野太朗『あの日の海』

休職を告げれば島田修三は「見ろ、見て詠え」低く励ます

海を見に行きたかったなよろこびも怒りも捨てて君だけ連れて
/同『人魚』

川で子ども海で子どもと遊ぶような不安を今日もいじめぬきたり

もし煙草を吸えたなら今あなたから火を借りられた揺れやまぬ火を

手水舎を囲む手のみな濡れびかりはづかしきまで動いてゐたり
/同「恋」(「文學界」2017年7月号)

 

かの人も現実にありて暑き空気押し分けて来る葉書一枚
/花山多佳子『空合』

〈あの人つて迫力ないね〉と子らがささやくあの人なればわれは傷つく

〈柿死ね〉と言つてデッサンの鉛筆を放り出したり娘は
/同『春疾風』

大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり
/同『木香薔薇』

つぎつぎに「おじやましました」と言ふ声の聞こえて息子もゐなくなりたり

爪楊枝のはじめの一本抜かんとし集団的な抵抗に会ふ
/同『晴れ・風あり』

 

ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろはれしのみ
/永井陽子『なよたけ拾遺』

べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊
/同『樟の木のうた』

あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ
/同『ふしぎな楽器』

十人殺せば深まるみどり百人殺せばしたたるみどり安土のみどり
/同『モーツァルトの電話帳』

ぬけぬけと春の畳に寝てゐたり御伽草子の長者のごとく  

ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり

 

うどん屋の饂飩の文字が混沌の文字になるまでを酔う

/高瀬一誌『喝采』

カメを買うカメを歩かすカメを殺す早くひとつのこと終わらせよ

「半熟卵は半殺し」どこからかこの唄がきこえて来たる

ワープロからアアアの文字つづけばふたりして森閑とせり

/同『レセプション』

リュートを吹く女こそ横たえてみよ暮らしてもみよ

吊るす前からさみしきかたちになるなよおまえトレンチコート

 

みづからを縊死せし枯れ葉こなごなになりて天へと開けり風よ

/「慈母蛆期」藪内亮輔『率』9号

引き絞るあなたを見てゐた引き絞られてつひにはなたれぬ涙を

唇あまた滅びてのちに一度だけふれし夜雨に海がけぶれり

水は水、風は風へと落ちてゆきたましひの辺の枯れ葉を絞る
/「心酔をしていないなら海を見るな」同『率』10号

白鷺が遠くかなたに目覚めたりわたしはミルクをあたためてゐる
/「雨と光と海」同『京大短歌』21号

草原の下に昨日の雨ありて抱くなよふかく雨は地を刺す
/「くち」同22号

 

入水後に助けてくれた人たちは「寒い」と話す 夜の浜辺で

/鳥居『キリンの子』

水筒の中身は誰も知らなくて三階女子トイレの水を飲む

鉄棒に一回転の景色あり身体は影と切り離されて 

指先でひかりを剥いでゆくやうにあなたのしろいページを捲る

/「bibliophile」『短歌研究』2017年2月号

余白より文字はしづかで青杉の翳のさやげる季節に入りぬ

その胸をひらきゆくとき仰向けに花の名前を教えてくれる

ひとさらい 笹井宏之第一歌集

ひとさらい 笹井宏之第一歌集

 

 

推し歌人アンソロジー①(影響を受けた歌人編)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

タイムラインに流れてきた、推し歌人アンソロジーの企画に合わせて、①影響を受けた歌人、②好きな歌人、③最近のイチ推し歌人をあげてみます。まずは影響を受けた歌人です。

砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている

俵万智『サラダ記念日』

「寒いね」と話かければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

シャンプーの香をほのぼのとたてながら微分積分子らは解きおり

四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら

/同『風の手のひら』

優等生と呼ばれて長き年月をかっとばしたき一球がくる

/同『チョコレート革命』

焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き

 

自動販売機とばあさんのたばこ屋が自動販売機と自動販売機とばあさんに

斉藤斎藤『渡辺のわたし』

雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁

あいしてる閑話休題あいしてる閑話休題やきばのけむり

宗教も文学も特に拾わない匙を医学が投げる夕暮れ

/同『人の道、死ぬと町』

静岡の長さに負けて三〇〇円コーヒーを買う行きも帰りも

二日後の河北新報朝刊の「生きてほしい。」ではじまる社説

 

つつましき花火打たれて照らさるる水のおもてにみづあふれをり

/小池光『バルサの翼』

廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり

/同『廃駅』

佐野朋子のばかころしたろと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず

/同『日々の思い出』

機械山羊に紙食はしむるたのしみや機械山羊とはシュレッダーなり

/同『草の庭』

経験は命題の意味をものがたりせず命題の真偽を教えくるるのみ

銀杏が傘にぼとぼと降つてきて夜道なり夜道なりどこまでも夜道

/同『静物

 

疾風にみどりみだるれ若き日はやすらかに過ぐ思ひゐしより

/大辻隆弘『水廊』

ドリブルの音の絶えたる真昼間はふかぶかと夏を待つ体育館

青春はたとへば流れ解散のごときわびしき杯をかかげて

あけがたは耳さむく聴く雨だれのポル・ポトといふ名を持つをとこ

/同『抱擁韻』

受話器まだてのひらに重かりしころその漆黒は声に曇りき

紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき

/同『デプス』

 

次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く

奥村晃作『三齢幼虫』

不思議なり千の音符のただ一つ弾きちがへてもへんな音がす

/同『鴇色の足』

ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文房具店に行く

転倒の瞬間ダメかと思ったが打つべき箇所を打って立ち上がる

/同『ピシリと決まる』

権太坂完全舗装されたれどその道の持つ傾斜変わらず

/同『キケンの水位』

フセインと生年が近いオクムラはフセインを見るオクムラの眼で

/同『スキーは板に乗ってるだけで』

 

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

千歳烏山歌会に参加しました

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

未来の嶋稟太郎さん主催の千歳烏山歌会に参加しました。

メンバーは未来の方が中心で、銀河集、夏韻集、彗星集の方々に加えて、塔、短歌人、所属なしの方と幅広い感じですが、夏韻集首都歌会でご一緒している方が多く、安心して参加できました。

記名5首を各自持参し披講のうえ批評を受けるというスタイルで、夏韻集首都歌会をより深くしたような形式で進みました。

5首あるとそれぞれの文体やテーマ、言葉の選び方に特徴が出ていて、読み手としても楽しめる会でした。

わたしは作成中の連作の一部を出したのですが、たくさんのフィードバックをいただき、得られるものがとても多かったです。

5首あると、手癖のようなものも如実にあらわれるもので、この部分も客観的にみることができる歌会でした。

夕方の早い時間に解散し、有志で二次会へ。

刺身や貝などをつまみながら、フランクに歌の背景などを振り返り、それぞれのスタイルを大切にできる場を大切にしたいな、と感じました。

嶋さん、参加者の皆さま。どうもありがとうございました。

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短歌人2018年2月号

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

今月の月詠です。

音本番入(はい)りますの声にヒロインはヒールを脱いで告白を受く

医者・歯医者・医者・医者・ミーシャ 聞きおればいしゃばかりなるMISIAの家族

「主役1」と呼ばれる権利を勝ち取って吾子はひとりでステージに立つ

こんにちはって言ったらこんにちはって言ってね 言ったのに声が大きくて叱られる

舞台ではまったく緊張しなくとも相手がいると緊張するらし

菓子ならばどら焼きがよしどら焼きはうさぎやがよし兎年われは

感想などお聞かせいただけるとうれしいです。

「勝手にふるえてろ」を観ました

勝手にふるえてろ」を3回観てきました。同じ映画を上映期間中に繰り返して観ることはあまりないので、感想を書きます。たぶんネタバレ的なことも書くので、映画を観ていない方や原作を読んでいない方はスルーしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初回は「綿矢りさ」の作品として観ていました。デビュー作から気になっていた作家で、『夢を与える』では世界の光と闇をとても痛々しく書いていたのが印象的でした。『勝手にふるえてろ』ももちろん読んでいました。と言っても、数年前に読んだくらいで細かいところまでは覚えていなくて、でもわりとダークなモノローグがどういうふうに映画になるのかなと思っていました。なので、最初の演出はもちろんオカリナさんのキャラクター構成とかすごいなと思いつつ、原作の筋はきちんと踏襲されていてとてもいいなと感じました。何はともあれ主演の松岡茉優さんの圧倒的なこじらせ具合に惹きこまれていました。そして、映画を観た直後に原作をKindleで買って、そういえばこんな話だったなあと思い返したのでした。

2回目は「松岡茉優」の演技をもっと観たいと思って行きました。ヨシカの振れ幅の大きさをあそこまで体現できるなんてむちゃくちゃすごいなと。ウェイトレスの金髪やアンモナイトやくるみのまつげをうっとり眺める感じ。イチを脳内で召喚するときの根拠のない全能感。ニのウザさを的確に見下す視線や口をついて出る罵り言葉のタイミング。海老天をくわえながら必死にイチとの距離を詰めていこうとするきょどった感じ。おろしたてのヒールのある靴を履いて颯爽と家を出るシーン。淡い期待が打ち砕かれたときの悄然とした表情。「絶滅すべきでしょうか」とまで落ちていく感覚など、あげていくときりがないのですが、ここまで不器用な人が、ここまではじけて、ここまで落ち込んで、ここまで笑えるのかと、ヨシカと一緒に泣いて、ヨシカと一緒に元気になる感じでした。天然王子を描くシーンや卓球のシーンや産休届を殴り書きにするシーンでは左利きの不器用さ加減が突き付けられる感じもありました。そしてシナリオをAmazonで買いました。

3回目は「大九明子」監督のやりたいことを観たいと思って行きました。ストーリーもセリフもわかっているので、安心して楽しもうという感じです。イチやニやくるみがどういうふうに描かれているのかとか、オリジナルキャラクターとのやりとりとか、電卓や拳でリズムを作るところや劇中歌を含めた音楽とか、衣装や小道具のこだわりとか。何よりセリフに勢いのあるリフレインがたくさんあって、テンポのよい掛け合いが絶妙でした。大九監督は人力舎に所属されていたらしく、ヨシカとニとの掛け合いの細かさとか、シリアスになりきりそうなところでの絶妙のタイミングのユーモアが素晴らしかったです。火事に慌てふためくところとか、奥多摩での願掛けとか、犬の散歩とか、動物園で走るところとか、写真の変な構図とか、雨合羽を着たオカリナさんとコンビニ店員の出し方とか、こちらもあげるときりがないです。二の過去にはあえて触れないところとか、ヨシカが休んでいるときの両親とのやりとりが割愛されているところとか、原作では冷酷に描かれていたフレディがわりとあたたかみのある人間に描かれているところとか、東京でのヨシカが思っている以上に愛されキャラになっているのが伺えたのもよかったです。

イチにはイチなりの世界との距離感があって、それを侵食してくる人たちからは常に心理的なバッファを持つのですね。いじられたら乗っかる、内心はいやでも誘われたら断らない、ふたりになったら記憶にない同級生からも話を聞き出すところなど、彼なりの処世術を背負わずにはいられない感じは、原作にはなかったイチ像でした。LINEを交換しつつ名前がわからんとはどういうことなんだろうとか思ったりするのですが、「俺を見て」とか「中学の頃に友だちになりたかった」とか、自己完結的に思わせぶりなところが罪作りだなあと感じました。

一方でニはかなりウザいんだけど、原作よりもファニーな憎めなさをまとっていたように思います。口下手だし、ストーカーまがいの絡み方とか、せっかく聞き込んだ情報を簡単に漏らしてしまって振られてしまうところとか、おいおい何やってんだよと、もどかしさを感じてしまいました。でも、釣りとか卓球とか角打ちとか動物園とか、自分の居心地のよい世界をしっかり持っていて、どんなにウザがられても自分の好きをちゃんと相手に向けて、包容力がある感じが魅力的でした。動物園や屋上で喜びを体全体で表現する姿も素敵だなと。

くるみは、たぶんよかれと思ったことを隠せないタイプの女性なのかなと思いました。ヨシカは二に知られたくないって言っているのに、ふたりを思っていろいろと助言して、結果としては裏目に出るのだけれど、それでもコミュニケーションをあきらめないところが優しさなんだろうな。ヨシカの心の声がダダ漏れしているときは、かなりひどいことを言われていたのに、ヨシカがひとりで引きこもっているときも、彼女なりの勇気をもってメッセージでお祝いと謝罪が言えるのは、ヨシカとの関係を修復したいという愛を感じました。

ラスト前の録音メッセージの一連がすごく好きなのですが、二につながらず4文字言葉を叫びここであきらめるのかと思わせて、まさかの紫谷がもう一回出てくるのにはむちゃくちゃしびれました。

ラストシーンは、ヨシカの強烈な自意識が生み出す暴力的な言葉の応酬を受け止めつつも、自分の気持ちに本当に正直に生きる二の格好良さが光りました。そしてヨシカのふくらはぎと扇情的に濡れる赤いふせんがぐっときました。

最後の「ベイビーユー」を聴きながらあたたかな気持ちで会場を出ました。とにかくほんとうに細かいところまで気を配っていて何度も観にいきたくなるの人がたくさんいるのも分かるなあという感じでした。パンフレットを買って、劇場に貼られていた綿谷さんと松岡さんの対談を読んで、松岡茉優さんが活字好きというところもいいななどと思って帰りました。

素敵な作品をありがとうございました。

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

 
 
 

夏韻集首都歌会に参加しました

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

新年最初の歌会は未来の大辻さんの開催する夏韻集首都歌会でした。3か月に一度東京で開催されている歌会なのですが、記名の歌を目の前で丁寧に読んでもらう場は案外と少なく、作歌はもちろん批評の方法をじっくりと味わう場でもあります。

また、未来夏韻集の方々に加えほかの選歌欄の方や様々な結社の方が集まる場でもあり、いろいろな視点からの意見が交わされる歌会です。

一首の景の切り取り方から言葉の用法や語法の細かいところまでいろいろと気づきの多い歌会でした。

歌会のあとはお昼を食べて、さらに歌会の会場のルノアールに戻り、短歌の話をたくさんした一日でした。

大辻さん、夏韻集の皆さま、同席してくださった皆さま、どうもありがとうございました。

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短歌人2018年1月号

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

今月の月詠です。

ひと駅をあるく ひと駅たびをする ひと駅ぶんのわたしがわかる
点滅が近づいてきて点滅はロードバイクとともに去りゆく
チョークにて〈ここで夜景をお楽しみください〉狭きわが家のベランダなれど
子のつくるソラマメひとつ置かれあり噛めばたちまちハイチュウ満ちる
計算が苦手な吾子が計算を解きおえるまで黙る苦しみ
連日連夜尾崎豊を妻は聴く何かが蝕まれる心地する

2018年から会員1欄に作品が掲載されることになりました。初心に帰って短歌と親しんでいくとともに、短歌人のよさをもっと深く感じて、もっと伝えていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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結社と添削について思うこと

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

12月号の短歌人が届きました。作品欄はもちろんなのですが、連載を楽しみしているコーナーもあり、その中でも「インタビュー短歌人」は毎月毎月楽しみにしています。

今月は西村美佐子さんのインタビューが掲載されていたのですが、結社という仕組みを考える大きな気づきがありました。一部を抜粋します。

――短歌を作り始めたのはいつですか。
「うた短歌会」という玉城徹主宰の結社に入ってからです。

――「うた短歌会」入会はすんなりと?
とりあえず歌会に参加して、そこで自分にとっては決定的な出来事がありました。(略)「そんなこといってないだろう、この歌は、尻尾が揺れている、そこがいいでしょう」って声がして、首に手ぬぐい巻いたそれが玉城徹だったんです。あ、わたしと同じことを思ってるって、ドキドキしました。同時に、これでいいんだとも感じました。

――なぜ「うた短歌会」をやめたのですか。
明確な理由がないんです。(略)ただいえるのは、郵送じゃなくて目の前で歌を添削していただく機会もしばしばあって、ほんとうに見事に、私がそうあろうとする作品に変身するんです、手品みたいでした。とても感動したし、でも、そのたびに、これは玉城徹の作品になってると思いました。見事すぎます。それに添削には、その歌人の傾向がもろに出ます。私は「短歌人」に入ってから第一歌集を出したんですけど、玉城徹の結社にいた時の歌はすべて除外しました。

また、編集室雁信(短歌人編集後記)には斉藤斎藤さんが、文体を野球のフォームになぞらえて文章を寄せています。

権藤博は「新人だろうが、ベテランだろうが、投球フォームというのは、その投手の個性であり、主張である。それに安易に手を入れるのは、厳に慎むべきだ」と述べている。●私もその方針だ。壁にぶち当たったと本人が思うまでは、フォームに手を入れない。●会員各位も、他人の歌の添削には、慎重であってほしい。

 

添削についてなのですが、わたしは短歌をはじめてしばらくして結社に入ろうと思った理由のひとつに「短歌の型を身につけたい」という意識がありました。いくつかの結社のなかから短歌人を選んだのは、決まった選者に定期的に添削を受けられるということも大きな理由のひとつでした。

しばらくは歌会にも行かず、ひたすら歌を作っては選歌と添削を受けるという時期が半年ほどありました。はじめて歌会に参加したときは、なんでこんなに歌が「わからない」と言われるのかが不思議でした。

添削では助詞の変更・追加・削除、語順の整理、言葉の斡旋、具体と抽象の度合い、用例が日本語として適切か、など細かく見てもらいました。端的に言うこと、助詞ひとつが歌を立ち上げているということ、ここでこう引き締めればいいのか、具体的に手わたすようにすれば伝わるのだ、ということを学んでいたのだと思います。

添削を受け続けているうちに、月評などをいただく機会も増えたのですが、まさに添削された助詞のひとつが「いい」と評されていて、けっこう複雑に感じたときもありました。

また、自分自身で好きな歌集を読んだり、同世代の人の歌を知るようになってくると、自分なりに工夫したレトリックが消されてしまったり、意識的に入れた破調が整えられてしまうことがたびたびありました。

岡井隆さんの『今はじめる人のための短歌入門』に、初心の頃は添削を受けることも有益だが、期限を区切ることが大事だ。という趣旨の文章があるのを読み「添削は二年」と決めました。このことを添削をしてくださる方に相談したところ、いい決断だと言ってくださいました。

そして、選歌のみを受けるようになりましたが、機会があり現在は口語短歌の編集委員の選を受けるようになりました。という流れで今のような感じのスタイルになってきたという経緯です。

ざっくりまとめると
①添削に何を求めるのかをぼんやりとでも持って臨んだほうがいいです。
②添削を受けることによって、自分のテキストを例題とした批評の言葉を知ることができます。
③一方で添削を長く続けると、八割くらいの歌で満足してしまい、最終稿を生み出す推敲力がつかない危険性があります。

あともう一つ。添削を受けていると、ひとの作品を安易に添削したくなりがちです。ここは改めて自戒を込めて書いておきます。

短歌人2017年12月号

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

今月の月詠です。

歌人2017年12月号 会員2(太田青磁

青いひとのいのちのゲージは徐々に減り点滅ののち 赤いひと

海ほたる東京湾にぬっと出でて次から次へ車を吐けり

地下鉄が地上の橋をわたるときやけにあかるい叫びをあげて

やたら長いエスカレーターの奥底に充填される一発となる

全国瞬時警報システム(ジェイアラート)が鳴っても電車は止まらない原子力発電所も止まらない

ひさしぶりに欄頭を取りました。送った歌にばらつきがあり、自信を持って出せた歌は最後の歌くらいでしたが、チャレンジしたところを見てくださっていて、とてもありがたいです。

今月号の三角点は、評論・エッセイ賞を受賞された、泉慶章さんと桑原勇太郎さんの文章が、かなり長めに載っており読みごたえがありました。西村美佐子さんのインタビューもたくさんの気づきがありました。

感想などお聞かせいただけるとうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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文学フリマ東京に「真砂集」を出展しました。

こんにちは、短歌人の太田青磁です。

11月23日(木・祝)に開催された文学フリマ東京に、はじめて出展者として参加しました。1975年生まれ短歌アンソロジー「真砂集」を発行しました。

同年代アンソロジーはいろいろなところで見かけますが、総じて同じ時期に歌集を出していたり、同じ地域で集まっていたり、学生が中心だったりと、わりとテイストが似た作品が多いなと感じていました。

というわけではないのですが、結社の方々とインターネットを作品発表の場としている方々とが一緒になったらおもしろいものができるのではないか、というくらいの感覚でまずはいろいろな方に声を掛けるところから始めました。

今回の編集は短歌人の生沼義朗さんに手掛けていただいて、評論やエッセイ、アンケートなどの企画を進めていくと同時に、人づてに紹介をいただきながら参加者や制作スタッフをお願いしたのが半年くらい前の出来事でした。

挿画に森笛紗あやさん、表紙デザインに嶋田さくらこさん、校正と販売に中家菜津子さんと柳原恵津子さん、ようやくメンバーがそろって、原稿もそろって、さまざまな手配をしているうちにあっという間に当日を迎えました。

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(当日のブースの様子、左隣のきれいなブースは「心の花」の皆さま)

1975年生まれのスタッフはいろいろな企画にも参加していて、当日は志稲さんと北城さんと深町さんに設営と販売を手伝ってもらい、たくさんの方へ「真砂集」を届けることができました。

■当日よかったことをいくつか

・北城さんの設営と接客が神対応だった。
・志稲さんが開場と同時に来てくれて、一瞬でブースが完成した。
・面識のない方が、自分の作品を目の前で読んでから買ってくださった。
・深町さんがいちばん大変な時間帯に来てくれてなごんだ。そして休みが取れた。
読書メーターの雪さんと華ちゃんが来てくれてたくさん話せた。
・休憩してたら海老茶さんがハイテンションで声を掛けてくれた。
・柳原さんと中家さんが楽しそうにブースに入ってくださった。
・コーヒーを飲みに二階に行ったら偶然とりこさんのブースに辿りついた。
・家族が梱包と発送を遅くまで手伝ってくれた。
・子どもがポップを作ってくれた。
・予想以上に多くの方が手に取ってくださった。
・戦利品の写真にウサギがたくさんいた。
・打ち上げのお店が美味しかった。
・売上記録が間に合わなかったが部数と金額が一致した。

 

■そして反省をいくつか

・前日夜に梱包作業に追われて、当日の準備が全然できてなかった。
・売上管理表とシフト表を作る予定だったのに力尽きた。
・大雨だったのでタクシーに乗ったら、思いっきり遠回りされた。
・委託商品の部数と価格を事前に確認していなかったため、設営時に混乱した。
・ブースの裏側が雑然としてしまい、両隣のブースにご迷惑を掛けてしまった。
・明らかにテンパった顔で接客をしてしまった。
・ほかのブースをまわるときに、秒に読まれている感じであまりお話しできなかった。
・段取りが悪くてちゃありぃとご飯を食べに行く予定が流れた。
・ほかのブースの出展状況をまったく把握しておらず、何を買って何を買い忘れたのか未だに分かっていない。
・ブースに戻ったら、わたしに会いに来てくださった方がいたらしい。ごあいさつしそびれた皆さま失礼いたしました。
・ふたつに分けても荷物を家に送るべきだった。

 

ブースにいらしてくださった皆さま、真砂集をお手に取ってくださった皆さま、本当にありがとうございました。

感想などお聞かせいただけるとうれしいです。

 

 

 

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