1975年生まれ短歌アンソロジー「真砂集」(まなごしゅう)を発行します。
短歌人2017年11月号
さまよえる歌人の会で『人魚』を発表しました。
10月21日にさまよえる歌人の会で染野太朗さんの『人魚』のレポーターをしました。
7月の短歌人の研究会でも『あの日の海』と『人魚』の発表をしたので、今回は聞き役に回ろうと思っていたのですが、せっかくなのでもう一度発表の機会をいただくことにしました。
さまよえる歌人の会は、二人が事前にレジュメを作って発表する形式で進められるのですが、今回はおなじ短歌人の相田さんが発表されていて、短歌人の参加率も高かったです。
相田さんは、目次の構成から丁寧にまとめてくださっていてとてもわかりやすく興味深い論点を挙げてくださいました。わたしは「家族」「相聞」「職場」「感情」「日常」とシチュエーション別に比較的多めに歌を紹介しました。
タイトルの『人魚』をどう読み解くのかということと、歌集の構成における作者と主体の位置づけ(私性の問題)というところが大きな話題になりましたが、特徴的な文体や、繰り返し使われるモチーフを会場の皆さんの発言にも触発されながら味わってみると、やはり一人で読んでた時には気が付かなかった側面が浮かび上がるような、貴重な時間を過ごすことができました。
最後に気になった歌を一首ということで、レジュメを作っていた時には気が付かなかったけれど、改めてぐっと来た一首を挙げました。
川で子ども海で子どもと遊ぶような不安を今日もいじめぬきたり
/染野太朗『人魚』
レポーターをするたびに、随所に読めてないなあと思うことが多々ありつつも、よい歌集をじっくり味わうという楽しく過ごせました。相田さん、参加者の皆さま、どうもありがとうございました。
こちらは短歌人2017年5月号に寄せた『人魚』の書評です。 あわせてお読みいただけると幸いです。
短歌人2017年10月号会員2欄(2)
短歌人2017年10月号会員2欄から
ボタニカルアートといふ語を知らぬまま飽きず図鑑を眺めてゐたり
/柊慧
もう死んでいるので冷房は十八度にしてください水と綿
/国東杏蜜
切りたくないものも切りつつ勝ちにゆき緑一色にもうすぐ届く
/北城椿貴
人波のとぎれてエスカレーターは意識を失うみたいに止まる
/相田奈緒
ラの音の濁音部分震え合う覚悟のようなラ・カンパネラ
/高良俊礼
全国の中学生の答案に明るいばかりの未来を見おり
/佐々木あき
緩慢な小説を読みよく食べてよく寝ることを試してみてる
/笹川諒
ジャパニーズテクノロジーと言いながらロマンスカーの椅子まわすひと
/山本まとも
たそがれをまた一頭の馬がゆくかへらぬ時をその背に乗せて
/鈴木秋馬
遠花火音なくあがるをみてゐたりこの世に母のもうゐない夏
/古川陽子
夜な夜な短歌集2017年秋号に参加しました。
わたしが短歌をはじめるきっかけとなった、読書メーターの夜な夜な短歌のメンバーが季刊誌を発行しました。今回もこの季刊誌に参加しています。
夜な夜な短歌集第12巻2017年秋号の題は「燃」です。
「炎上案件」
プロジェクトとう大波にさらわれてもがけどももがけども景色変わらず
慣性の力は強し 眠れなきわれをも満員電車に押しこむ
カルガモは今日も列なし歩みおり 会社なんかは燃えていいのだ
こちらのリンクの「この本の詳細はこちら」から作品を読むことができます。
この歌集には、書肆侃侃房「新鋭短歌シリーズ」4期にて歌集を上梓されるちゃありぃこと小坂井大輔さんとティさんこと戸田響子さんも参加しています。
あわせてお楽しみいただけると嬉しいです。
短歌人2017年10月号会員2欄(1)
短歌人2017年10月号会員2欄から
『富士日記』を読んで夜明けに家を出る車のトランク静かに閉めて
/柳橋真紀子
ドイツ館の屋根にドイツのまぼろしや俘虜が第九を歌いしところ
/福永文子
不機嫌な朝にはねらるるパスワード次はゆっくり八桁たたく
/円弘子
アンコールはチャイコフスキーのセレナーデ ティンパニ奏者鼻掻きており
/植松豊
ドヴュッシーとラヴェルの違ひ?音色の固さだよねえ ピアスが揺れる
/杉本玲子
終曲はバーンスタイン・メモリアル若者称えて総立ちとなる
/矢田敏子
木炭を消しつつかじる食パンに口の周りを黒くせし午後
/蒼あざみ
人間の眼をして嘆くゲルニカの牛の心を癒してやれぬ
/桃林聖一
左右の手がシマからシマへ火を運ぶ 原爆忌にもひまわりは燃え
/葉山健介
海水に身体を溶かしいつの日かあなたを濡らす雨になりたい
/鈴掛真
染野太朗×花山周子トークショー(書肆侃侃房フェア記念)に参加しました(2)
10月1日の夕方に双子のライオン堂で開催された、染野太朗さんと花山周子さんのトークショーに参加しました。
(前回の記事はこちらから)
染野太朗×花山周子トークショー(書肆侃侃房フェア記念)に参加しました(1) - 太田青磁の日記
続いて、染野太朗さんの選です。
こぬひと|を---
まつほの|うらの
ゆうなぎ|に---
やくや|もしおの
みもこが|れつつ
掛詞、歌枕、縁語、序詞、ふたたび掛詞とレトリックをふんだんに盛りこんだ定家自選のお気に入りの一首。隙のない韻律。
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
/与謝野晶子『みだれ髪』
そのこはたち|----
くしに|ながるる
くろかみ|の---
おごりの|はるに
なりに|けるかな
その子とは自分のことらしい。初句六音は七音よりインパクトがある、という花山さんの発言はとても頷けるものでした。七音あると、4+3なり3+4なりで間が取れるのですが、六音は一気に畳みかけるような印象です。
形容詞過去教へむとルーシーに「さびしかつた」と二度言はせたり
/大口玲子『海量』
けいよう|し---
かこおし|えんと
るうしい|に---
さびし|かったと
にどいわ|せたり
この日のハイライトと言っていいくらい白熱した一首。作者情報をどこまで読みの考慮に入れるべきか迷う。多くの形容詞から「さびしい」という言葉を選んだところがいい。
思い出のひとつのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
/俵万智『サラダ記念日』
おもいで|の---
ひとつの|ようで
そのまま|に---
しておく|むぎわら
ぼうしの|へこみ
30年経っても高校生に愛唱される短歌とのことです。四句の字余りと句またがりが読者の心にフックを掛けるのでしょうか。
海に来れば海の向こうに恋人がいるようにみな海を見ている
/五島諭『緑の祠』
うみにくれ|ば---
うみの|むこうに
こいびと|が---
いるよう|にみな
うみを|みている
そして、今の高校生に訴求する歌。順接確定条件の「ば」が規定する世界。海が3回あるが「み」は5回繰り返される。
こんくりいと|----
ぜんぶ|はがして
つちに|する--
つちを|たがやす
そして|たねをまく
特集「テロ等準備罪を詠む」より。初句は畳みかけるように、結句はゆったりとおさめる。
ひとりで読んでいたらなかなか気がつかないことにも、すっと手を差し伸べてくれて歌のよいところを伝えてくれるような時間でした。
染野太朗さん、花山周子さん、素敵な時間をありがとうございました。
染野太朗×花山周子トークショー(書肆侃侃房フェア記念)に参加しました(1)
10月1日の夕方に双子のライオン堂で開催された、染野太朗さんと花山周子さんのトークショーに参加しました。
15名程度のわりとアットホームな空間に、染野さんと花山さんがそれぞれの10首選を持ち寄り、お互いに語り合うというとても楽しいイベントでした。
10首を全部やるよりは、絞ってやりましょうということで和歌・近代短歌・現代短歌を網羅しつつ5、6首を選んで自由に読みを語っていただきました。
染野さんと花山さんの対談はとても面白くて、いろいろと分かりやすく説明してくださったのですが、でもやっぱりわからないこともたくさんありました。わかった気になって帰ってくるよりは、レジュメに載っていた歌が収録されている歌集や連作を読んでみて、感じることを大事にしていこうかと思います。
というわけで、取り上げられた歌をリズムを中心に読み直してみました。
まずは、花山周子さんの選から
君が代は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで
/詠み人知らず『古今和歌集』(※わが君は)
まず、国歌を縦書きで見たのがはじめてかもしれないです。
私が君が代を切って読むとするとこんな感じになります。
きみがよ|は---
ちよに|やちよに
さざれいし|の---
いわおと|なりて
こけの|むすまで
さざれいしは5連符のような感じで早口になります。
この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば
/藤原道長『小右記』
このよを|ば---
わがよとぞ|おもふ
もちづき|の---
かけたる|ことも
なしと|おもへば
このくらい突き抜けるとすがすがしい。いい気分になりたいときに思い返そうと思います。二句の強調。
さようならいつかおしっこした花壇さようなら息継ぎをしないクロール
/山﨑聡子『手のひらの花火』
さような|ら---
いつか|おしっこ
したかだ|ん---
さようなら|いきつぎを
しない|クロール
「さようなら」のリフレインが四句の字余りを感じさせず急ぐことなく読ませる。
さかみちを全速力でかけおりてうちについたら幕府をひらく
/望月勇治郎『あそこ』
さかみち|を---
ぜんそく|りょくで
かけおり|て---
うちに|ついたら
ばくふを|ひらく
濁音のある強い言葉だけが漢字で表記されていて、清音のことばはすべて開かれている。戦場は坂の上、政治は坂の下か。
きみの頬テレビみたいね薄明の20世紀の思い出話
/平岡直子「たべるのがおそい」vol.1
きみのほ|ほ---
テレビ|みたいね
はくめい|の---
にじゅっ|せいきの
おもいで|ばなし
きみ、頬、薄明、20世紀、思い出話という名詞が並ぶ。薄明のは下の句に掛かるのか、テレビに掛かるのか。
背と腹にカイロを貼りて校門を目指すことあり とても寒くて
/染野太朗『人魚』
せとはら|に---
かいろを|はりて
こうもん|を---
めざす|ことあり
とても|さむくて
主体の動作を外側から描写しているが、結句で突然内面の感覚が出てくる。一字空けに十分時間を取って読みたい。
(続きます)
作品月評8月号に掲載されました(短歌人2017年10月号)
8月号に掲載された短歌の評をいただきました。
短歌人2017年10月号 作品月評8月号会員2欄 斉藤斎藤評
納会は納涼船なり桟橋に職責順に社員居ならべり(太田青磁)
大きくはない船に積み込まれ、勤務時間よりも窮屈そうな納会のはじまりですね。内容はもちろん、「納~納~」「~に~に」という一首の律儀な組み立てが、気づまりな空気を強調しています。座席表を俯瞰するような「居ならべり」もグッド。
斉藤斎藤さんに選歌をお願いしてから、はじめて評をいただきました。とてもうれしいです。
今回はSelectionにも掲載されました。
短歌人2017年10月号 Selection 8月号会員2欄 林悠子選
この階段を降りてきたのか違うのか中二階のある居酒屋に迷う(太田青磁)
この歌は、歌会の打ち上げでした。
感想などお聞かせいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。